立場を守ろうとかそんなことは考えていない。


ただ、自分が今の幸せを手放したくないだけで。



一度は離れようと決めたのに、こうして一緒に居る心地よさを最後は手放せなくて。


拓海の手を振りほどけなかったのは私だから。



「拓海がそれだけ私の事を大切に考えてくれてるだけで幸せだから」



拓海と一緒になりたいなんて考えちゃいけない。



「今度、奥さんの実家から連絡があったら……奥さんに会ってあげて」



考える事はダメなんだから。



「……分かった」



拓海の返事に傷ついている心を気付かれないよう、顔を上げて微笑んだ。