兄は私の頭をポンポンと叩くと「戸締りよろしく」と言って先に靴を履いていた。



『会社から初ボーナスを貰ったら家を出るね』



採用が決まった時、兄に告げた。


兄は少し寂しそうだったけど「奈央の好きにしたらいい」と言ってくれて。


きっと、私が兄の負担になると考えている事を知っているのだろう。


何も言わずに頷いてくれた兄に感謝した。



「行ってきます」



誰もいない家の中に声を掛けると、玄関の扉を閉め鍵を掛けた。





――カチャン……







この音が……




私の運命の歯車を動かした音だとは気付かずにいた。