お店を出て周りを見渡すと


――すでに彼の姿は人混みに紛れて……


見つけられなかった……



だけど、このタイミングで彼を見かけた事は私にとって衝撃的で。


なぜだか分からないけど込み上げてくる涙を止める事ができなかった……





「奈央、なかなか似合ってるな」



後ろを振り返ると、すでにスーツを着込みスプリングコートを手にした兄が立っていて。


私は……


また過去へ戻っていた事に気付く。



「今日は入社式だしね」


「小さな会社だったっけ?」


「うん。新入社員も何人いるか知らないし」


「まぁ、やりたい事見つけたんだし頑張れよ」