「ナビしてくれる?」



静寂を破ったのは彼だった。


気が付くと景色は見慣れたものへと変わっていた。



入社して半年してから1人暮らしを始めた自分の住む街。


タクシーの運転手さんに説明するように、彼にも自宅までの道を伝えた。



日頃、車に乗らないのに彼は安全運転で。


これも彼の性格を表しているみたいに感じた。



「ここです」



毎日歩いている道を辿れは、自宅のマンション前。


静かに車が停止した。



彼の左手が私の右手から解かれ、シートベルトを外す。


後部座席へ身を乗り出した時に私の鼻孔をくすぐった彼の香り。