静かに車が動き出して、私はどうしていいのか分からず、ただ鞄を胸に抱きしめていた。
しばらく走ると赤信号で車が止まる。
「びっくりしただろ?」
私を見ている彼は、どこかいたずらが成功した時のような、いつもより少し幼く見える表情をしていて。
そんな彼の顔を見て強張っていた体の力が抜け落ちた。
「び、び、びっくりした!」
「プッ……奈央は予想を裏切らないな」
鞄を膝の上に置き、思いっきり背もたれに体を預ける私を見た彼は、笑いながら再びアクセルを踏んだ。
1時間後、私は彼と海の見えるお洒落なレストランに居た。
席も食事も彼の名で予約されていた。
なぜ、此処に連れてこられたのか?
――なぜ、私だけなのか?

