そして、ホワイトボードに『直帰』と書かれた文字。



事務所のビルを出て、ヒールの踵がアスファルトに当たりカツカツ音を立てるほど早足になる。


初夏なのに気温が高く、ジワリと背中に汗が浮かぶ。


それが気にならないぐらい私は緊張していた。



――彼の意図が分からない。


なぜ真央や上原さんに内緒なのか?



しばらく歩くと駅に着く。


思わず周りに営業社員がいないかどうか確認してから、個人携帯を鞄から取り出した。


電話をかけるかメールを送るか……


今までメールでは何度もやり取りをしていたけど、電話をかけたことはない。


彼の携帯に着歴が残る事を恐れながらも、私は通話ボタンを押していた。