二十分後。
何故か私は疲労していた。
大して動き回っていないというのに。
そんな私に比べてまだまだ元気な二人。
思わず、若いっていいななどとおばさんくさいことを口走ってしまう。
「ねーさん?」
何でもない、と首を振った。
すると奈月が笑って、せつってばへんなの。そう言った。
扉の向こう側から足音が近づいてくる。
それに気付いて時計を見やると、もうすぐ六時だった。
「雪樹ちゃん?」
こんこん、とノック音が部屋に響き渡る。
私はそれに、はいとだけ応えて扉を開ける。
そこにいたのは、栞叔母さんだった。
こんばんは、と挨拶する。
それに続いて雛子も挨拶する。
奈月が、栞叔母さんに飛びついた。
おかえり、と幸せそうな笑みを浮かべて。
「いつも奈月がお世話になってるわ。ありがとう」
「ん、別に大丈夫。栞さんは仕事お疲れ様」
栞叔母さんは奈月の母だ。そして老人ホームで働いてもいる。
いつも朝八時から夕方五時半まで働いている栞叔母さんは、きまって奈月をうちに預ける。
昼間は学校があるとはいえ、放課後は家に一人になってしまうから。
というわけで、親族で家が隣の隣のうちに預けてくるのだ。
「それじゃあ明日もよろしくね」
「ああ、こちらこそ。じゃ、さよなら」
ぱたり。扉が閉まる。
一気に部屋から音が失われた。
しょうがない。宿題を再開するか。
私は机へ向かった。
「ねーさん」
雛子が私を呼ぶ。
「どうした?」
そう応える私。
しかし雛子は、「なんでもないよ」と言っただけであった。
雛子に背を向けていたため、表情はわからなかった。
だが、おそらく笑っていたのだと思う。
私は特に気にとめることもなく、数学との死闘を始めることにした。

