私が黙っていると、お父さんは再び話し始める。



お父さん:「…あの日のことは、本当に偶然としか言いようがない。世間が、運命だと名付けた意味が分かるようだった。私も…ちょうど自暴自棄になっていて、夜中に浜辺を走って体を温めていた。何てったって、寒くてなぁ!雪が降ってもおかしくない。…だが、不思議と空には星が輝き、月が綺麗だった。」



「…冬でも、…あの場所の夜空は綺麗なんだね。」


お父さん:「ああ!…ほんの少しでも雲っていたなら、私は…崖から落ちる人影を見つけることはなかっただろうね。」


ドクンと大きく心臓が動く。


お父さん:「…何か黒いものが一瞬目に映り、それが人だと直感的に思った私は真冬の海に飛び込んだのさ。人でなければいい。ただの勘違いならそれでいい。…ただ、この目で確かめずにはいられなかった。…それが、…高木君だった。」



もし、お父さんが訪れていなかったら、空が綺麗だと見上げていなければ、雪が降っていて雲っていたら、海の中で先生を見付けられなかったら…。高木先生は…この世にいない…。


また、ドクンと音を立てる心臓を掴むように、左手で服をギュッと掴む。