吉岡の無念… こいつは絶対に吉岡など知らなかったはずだ。
毎日途中で抜け出していたのでは、
サッカー部の練習だって見たことが無いだろう。
それなのに…
いや、今、東条は冬休みの後半は北海道へ行っていたと言った。
受験前に親子でそんな所へ行っていたのか。
試験は… やはり初めから諦めていたと言う事か。
まあ、東京大学と言ってしまったが、
初めから無理だとはわかっていた。
高木の思いはそっちの方に向かい、
隣で刑事達と話している京介を見つめている。
「じゃあ、君のお父さんが本当に。」
「父は日暮里の田島総合病院の外科で働いている。
疑うなら聞いたらいい。
俺は今、チーズと言うドラッグの
実物に遭遇できて嬉しい気分だ。」
それにしても、品のある顔立ちの割りに言葉使いが荒い。
医者と言えばエリート、母親は何も言わないのか。
いや、ひょっとしたら忙しくて、
放任の育て方をしていたのかも知れないなあ。
刑事達はそんな事を考えながら、
それでも物怖じせずに、
どことなく頼りがいのある態度をしている京介に、
刑事たちは、こんどは違う意味で興味を持った。
「あの坂井和美はどこにいるのだ。
かわいそうに、あの時すごく怯えていた。慰めてやりたい。」
その言葉に呆れて、高木は京介の顔を見ている。
こいつが一年生の女子学生を知っているとは意外だ。
酒井和美どころか、誰かと話をしているところを見たことが無い。
女子生徒が挨拶をしても、
軽く頭を下げるように頷くだけで声を出して挨拶を返すこともしない奴が…
高木は、この東条京介と言う自分のクラスの生徒が全く分らない。

