「ええ。栄司はゲーテの『ファウスト』だったよね?」


 ――うん。これから先が面白くなるけどな。


「……来月からめでたく院生か」


 慧子が呟くと、僕が、


 ――ああ。お互い頑張ろうな。


 と言った。


 僕自身、これからが勝負だと思っている。


 院に入っても修士が二年、博士課程は三年あるからだ。


 その間に論文などをたくさん執筆しないといけない。


 大学生のレポート程度じゃ済まないのが、院の論文なのだった。


 秋光大は日本ドイツ語学習協会の指定校に入っていて、毎年秋には欠かさず学会もある。


 それにこれから先、院で勉強し続けながら、僕たちは上原先生のお手伝いもするつもりでいた。