途端に不安が、身体中を支配していく。


もう、千尋には会えないんじゃないかって。
もう、帰ってこないんじゃないかって………。




帰ってこない……。


あたしって、おかしいよ。

帰ってくるってのは、この家に住んでいる人に対しての言葉だ。


千尋は、此処に住んでるわけじゃない。



ドクン、ドクン。


千尋には帰る場所があるんだ。


これは仕事で、外には千尋の世界がある。



ドクン、ドクン、ドクン。


グッと唇を噛み締める。


溢れてくる涙を流さないように。


落ち着きなく鳴る鼓動が、耳鳴りのように響いた。



「…ち…ひろ……」



分かった。


千尋は、もういない。


千尋とは、もう会えない。


何となく、もう終わってしまったんだと思った。



我慢していた涙が、ツーッと流れ落ちても、それをすくってくれる千尋の暖かい指はない。



初恋は、最悪な終わりを迎え。


二度めの恋は、始まって直ぐに終わりを迎えた。



クリスマスの朝、冷たい床に立ちすくみ芯まで凍りついても、優しく抱き締めてくれる腕はなく。



無情にも空からは、雪が降っていた………。