キュッて唇を噛む。


噛んでいないと、いますぐにでも叫んでしまいそうだったから。



千尋もキョロキョロと視線を動かし、やたら落ち着きがなくなって。


今の空気は、嫌なものじゃなくなった。


ギスギスしたものはない。



「なぁ――」


決心したように、千尋が口を開いた。
















「もう一回、俺を信じてくれんか。

また、欄の側におらせてくれや」



顔を真っ赤にさせた千尋を、まじまじと見つめる。


信じてくれ――。



そんな子犬みたいな表情で、いつも、堂々としていた千尋が弱々しく見えて。


あたしを必要としてくれている人がいる。


好きだと言ってくれる人がいる。