「主人の命令は、何でもきかなあかん。

やけど、欄と出会ってからは……、欄を見た時から、身体だけは無理になった」


背中に回された手に力が入り、痛みを感じたけど


心地よくて、ずっとおとなしくしていた。



千尋の胸に、顔を埋めてみると

ドクンドクン

と、早く心臓が音をたてていた。



「初めて欄を見たんは、あの男と欄がバーで飲んでる時や――。


めちゃくちゃ緊張しとって、可愛らしいなぁて。
あいつのために、色々話題振って、どうにか楽しませようとしてんのがわかって。

やけど、あいつがおらんなった時には、欄は素の表情に変わってた」



必死だったから。


初めて先輩にバーに誘われて、舞い上がって。


凄く緊張してた。


どうにか気に入られたくて、慣れない会話も頑張った。


知らない話題にも、知ったかぶりなんてして。


先輩がトイレで席を立った時、ホッとして伸ばしていた背筋を普段のようにだらけさせた。


まさか


そんな姿を、千尋に見られていたなんて。


全然、気付かなかったよ。