怒鳴り声が、あたしの乾いた涙を誘う。


ポロポロと頬をつたる。



「社長との決まりやった。
俺の仕事は、家政夫であって相手の欲望を叶えるメイドや。

メイドはご主人様だけやって、やから恋人なんか作ったらあかん決まりやった」


スーツとは不釣り合いな帽子。


戸惑っているのを隠すためなのか、一度脱いだ帽子をまたかぶる。


落ち着きがない。



「恋人なんて、作るなかったから、その契約に俺も納得した。

夢を与える仕事やって、主人を癒す仕事に誇りもあった。

やけど、そろそろ限界やて思った……」



あたし、期待しちゃってる。


千尋の言葉や

千尋の仕草に


もしかして、あたしの早とちりとか?

て、浅はかな期待をしてる。


期待しちゃったら、駄目なのに……。


だけど――。




千尋に抱きしめられた瞬間。


千尋の香水の香りと、温もりにめまいをおこした。


また、好きになってしまう。



いや、またはおかしいかな………。