戸を開けようとする手が震えてしまう。


開けたら、千尋がいるんだ。


会ってどうする。


泣いちゃうかもしれない。

また、惨めな思いするかもしれない。



嫌なのに……。


でも会いたいと思う気持ちの方が、何倍も強くなる。
















「……欄やろ……」


え?


戸の向こうから、千尋に名前を呼ばれた。


「開けてや……話があんねん」


話って、なに?


静かに戸を開けた。


あたしの視線の先には、スーツ姿の千尋がいて。


あの瞬間。


裏切られた日の、千尋の姿を思い浮かばせる。



「欄……」


音を辿るように、千尋の顔を見上げたら、きっと涙で滲むと思ってた。



なのに、不思議と

涙は流れなくて。



ただ、静かに時は流れてたんだ。