「ふふ…」


「何を笑ろうてんねん?」


彼氏という響きに笑いが漏れた。


軽く笑うと千尋が眉を寄せたのが見えて、さらに笑いが込みあげる。



「嬉しいねんよ。
千尋の側にいてええんよね?」



千尋に抱かれて、あたしは彼女だと実感してもいいんだよね?


大丈夫だよね?



「…うん、そやね」


「………」



今の、ちょっとした間が気になった。


一瞬だけ曖昧に微笑んだ千尋。


「どう…」
「もう一眠りしよか」



尋ねようとしたら、千尋によって遮られた。


上手くはぐらかされた気がして、複雑な気持ちが残る。



ちょっとした不安。



先輩は、あたしを抱くまではとことん甘かった。


優しくて、その瞬間は確かに幸せを感じた。

けれど、抱かれた後はそっけなくなって、それからは今までが嘘のように幸せがガタガタに崩れ落ちたんだ。



一瞬だけ、ほんの一瞬だけ不安がよぎったの。


千尋は……あたしを捨てたりしないよね?



相変わらず優しい手つきで髪を撫でてくれるし、あたしが寝つくまで千尋はずっと隣にいてくれた。