千尋と出会って、まだ一月も経ってない。


でも恋に時間なんて関係ない。




失恋を癒してくれるのは、新しい恋だと聞いたことがあった。


先輩に捨てられたショックを、千尋が癒してくれた。

当たっていた。


千尋に恋したことで、先輩との辛い思い出を昔のことと言えるようにまでになった。




千尋の差し出してくれる大きな手。


千尋の癒してくれる低い声。


千尋の優しい笑顔と眼差し。



そして今、あたしのことをおもって『こんなことをしたら傷つく』と、しかってくれる厳しさも、あたしは好きなんだ。



やっぱり、好き。


どうしても、好き。



「欄、顔上げてや?」


うつ向いてしまったあたしの顎を支えて、千尋は躊躇いがちに声をかけてきた。


ホントに、どこまでも優しい千尋。



あたしは順番を間違えていたよね。



千尋の気持ちを確かめ前に。
あたしがやらなくちゃいけなかったことがある。


それは、人を好きになったらもっともやらなきゃいけない当たり前のことだ。



「千尋……」