「美月。俺ね、教師続けようかと思って」
「……」
アイスノンに押し付けていた顔を、先生に向ける。
「……は?」
「ん? だから、教師続けようと思ってるんだ」
……続ける?どこで?
「音楽教えられることは幸せだし、教師も悪くないなって思って。今日みたいにリハビリがてらちょくちょく演奏会に参加して、いつかピアニストになれるように、頑張るよ」
先生はステージにあるグランドピアノを、美しいものでも見るような目つきで眺める。
「夢が叶わないのは、自分に努力が足りないからだって。向き合わずに逃げてるからだって、美月に教えてもらったしね」
「……叶えるの?」
「夢は叶えるためにあるんでしょ?」
微笑む先生に、あたしは少し涙腺が緩んだけど笑い返した。
……頑張れば、きっと夢は叶う。なかなかうまくいかなくても、諦めずに、勇気を出して、一歩一歩進んでいけばいい。
自分の可能性を信じなきゃ、何も始まらないから。
夢だけじゃない。願いも、想いも、色んな迷いも不安も。
逃げずに向き合えば、自分なりの答えが出て、きっといつか届くし、乗り越えられるんだと思う。
1人じゃ出来なかったことも、2人なら、みんなとなら出来る。
完全ではなくて、ちょっと不完全なくらいが人間らしい。
だからあたしも先生も、今こうしていられる。幸せだと、思える。
そうでしょう?先生。



