「だから、さよならしたんだ。あの曲を完成させて……零に、朝から晩までピアノの練習に付き合ってくれって頼みこんで、死に物狂いで練習した」
何のために?なんて聞かなくたって、もうわかってる。
鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなった。
「……美月を想って、ちゃんと弾けるようになったら迎えに行こうって。決めてたんだ」
静かに頬を滑った涙は、悲しいものなんかじゃない。
胸の奥を焦がすほど熱い、溢れる幸せの涙。
「……ゴメンね。ずっと、何も言わなくて」
申し訳なさそうに眉を下げる先生に、怒ることなんかできなかった。
先生は、ずっとずっと、ひとりで頑張ってたんだね。
弱さを乗り越えて、夢と向き合って、何ひとつあきらめることなく。毎日、毎日……歯を食いしばって、弾けるって思いながら。
あたしを迎えにくる日を、夢見てくれた。
その日のために、ずっと頑張ってくれてた。
「美月なら、変わらずに待っててくれるって信じてた。美月だから、信じたいと思った」
「……先生……っ」
何て頑なで……深い愛なんだろう。
「美月に出逢えたから、俺は今、ここにいられるんだよ」
あたしだってそうだよ、先生。



