「俺にしとけばいいのに」
あたしが話し終わると、晴は1番最初にそう言った。
ムスッとして、不満そうに。でも最終的に笑ってくれるんだ。
「そっかぁーっ! 待つんだ、美月。それもしんどくない?」
椿と同じことを言いたいのかな。迎えにきてくれる確証なんて、どこにもないって。
「……でも、言いたいことは言ったし。今も零さんといるのかなって考えると、嫌だけど……」
「分かってるよ。奏ちゃんが好きなんだろ?」
言葉に詰まると、晴が代わりに言ってくれる。
「……うん。好きなのは、先生」
晴の目を見てハッキリ言うと、笑ってくれた。
「やーっぱ、奏ちゃんには敵わないよなぁ。参るよ、ほんと」
晴は「あーあぁー」と残念そうな溜め息を吐きながら、外廊下の柵に腕を乗せて下にある中庭を見下ろす。その背中に、あたしは声を掛けた。
「晴……好きになってくれて、ありがとう」
振り向かない背中に、あたしはなおも続ける。
「晴が、好きって言ってくれて嬉しかったよ。あたしにはないもの、いっぱい持ってる晴だから。凄く凄く、嬉しかった」
思えば、あたしがクラスで1番最初に自然に話せたのは晴だった。
話すようになって、椿も交じるようになって。
色々あったけど、菊池さんともクラスメイトとも素の自分で話せるようなったのは、先生のおかげだけじゃない。
きっと、変わらない笑顔がそこにあったから。



