「あたしは、零さんみたいに先生を置いてったりしない」
精一杯の強がりで、多分攻撃だった。
先生に別れを告げた零さんが、好きでそうしたんじゃないってことは分かっていたけど。
零さんは一瞬笑顔を消して、だけど再び目を細めた。
「……」
その瞳を、あたしは知っている。
瞳の底から浮かび始めた残虐な微笑は、あたしの胸にポタリと静かに毒を染み込ませた。
コンサートで会った時、感じたものと同じ。
「まるであたしがソウを捨てたみたいな言い方ね。違うわよ? ソウが望んだから、あたしが別れを言うしかなかったの。あの時はね」
「……言ってる意味が分からない」
「嘘。分かるでしょ? お互い好きでも、離れなきゃいけない時ってあると思わない? だからあたしは別れを告げたの。いつかまた、戻れる日を思ってね」
そう言われて、あたしは口を噤んだ。
好きでも離れなきゃいけないなんて、まさにあたしが経験したことだったから。
先生に別れを告げられて、あたしは嫌だって泣いたけど。
結局その日は自分の想いだけ伝えて、そのあとも、文化祭の時も、なんとか戻れるように必死だった。
「ソウって本当にダメね。美月ちゃんみたいな若い子にまで、あたし達と同じ想いをさせるなんて」
……やめてほしい。一緒なんかじゃない。同じなんかじゃない。
あたしと零さんは、違う。
そう思うのに、何で言葉が出てこないの。



