世界を敵にまわしても



「質問ってそれだけですか?」


これ以上変なことを聞かれたくなくて、零さんが知る先生の話も聞きたくなくて、そう言った。


だけど零さんは「まさか」と笑ってワインを口に含む。


出された前菜は、いつまで経ってもお互い手をつけない。


「ねぇ、美月ちゃん? 悪いことは言わないから、ソウはやめといた方がいいわよ?」


……それは質問じゃなくて、零さんの望みだと思うんだけど。


答えないつもりだったのに、零さんは微笑みながらジッとあたしを見て返答を待つ。


先生を諦めるつもりがないことぐらい、あたしが零さんに会いたいと言った時点で分かってるんじゃないの?


それとも諦めさせたくて、あたしと会うことを承諾したんだろうか。


……だったら尚更、あたしが答える必要はない。


「その言葉、そっくりそのまま返します」


目を見張った零さんはすぐにフッと笑みを漏らして、クスクスと笑い始めた。


口元に持って行かれた指先は、嫉妬するくらい綺麗だ。


ピアニストの手。


少し骨ばっているけど、白くて細くて、マニュキアが燃えるような赤色。


その手で世界中の人を魅了する演奏をするんだと思うと、無性に苦しくなった。


先生と解りあえる部分を、零さんが持ってると思い知らされるから。


だけどあたしも知ってる。先生の過去も、弱さも。


零さんには到底及ばないかもしれないけど、あたしだって知ってる。