世界を敵にまわしても


――――…

「ただいま……」


玄関のドアが閉まっても、リビングから聞こえる笑い声は止まない。


1日中重かった体は家に近付く度重さを増して、更に重力が掛かった気がした。


シューズラックの上にある時計を見ると、時刻は7時半過ぎ。


今日も変わらず7時に、家族は夕飯を済ませただろう。


兄は家庭教師のバイトがあれば家では食べないけれど、それ以外の日は全員揃って食べている。あたしを除いての話だけど。


……お父さんもか。でもいつも居ないし、今日も帰ってこなそう。


まるで3人家族の家に、居候してる気分。


「……ただいま」


リビングに入ると、やっぱり那月の勉強を兄が見ていて。それをにこやかに見つめていた母は、ゆっくりと居候者に視線を移す。


「早くご飯食べなさい」


いつものようにそれだけ言って、母はあたしを視界から追い出す。1人だけ、いつも明るく接してくれる那月は兄の説明を聞くのに必死だ。


……冷たい。声音とか、視線とか、表情とか。


あたしに向けられる全てが、ヒンヤリと氷のように冷たく感じる。


それを感じる度、自分は今独りなんだと分かる。


確かにここに居るのに、誰の瞳にも映らない恐怖。



あたしは一体、何なんだろう。