世界を敵にまわしても



「……先生は、また逃げるの?」


零さんと夢を捨ててこの学校にきて、だけど教師を辞めると言って。


「……あたしのことも、捨てるんだね」


先生は目を見開いたけど、きっと、何も言い返さない。


だって、分かるの。何を言っても伝わらないって。


伝わっても先生の決心は揺るがないって、分かってしまったんだ。


「ゴメン」


真面目な顔をして、先生はそれだけ言った。その一言があまりにも多くの意味を含んでそうで、一筋だけ涙が落ちる。


何に対してのゴメンか、分からないよ……。


「先生……」


あたしの頬を包む先生の手を掴んですり寄ると、そのまま先生のてのひらに唇を落とした。


あたしから初めてしたキスは、薄い生地越しくらいが丁度いい。


もう二度と、こんなことはしないけれど。


先生の手を掴んだまま頬から引き離して、それを先生の方へ押し返した。


もうあたしが先生の温度を感じることはない。先生もあたしに触れてこようとはせず、ただ目だけを合わせていた。


「あたしの初恋は、先生だけだよ。これからも、ずっと……」


たくさんの想いを込めて、色んな感情を我慢して、あたしは立ち上がる。


見上げてきた先生にあたしは微笑むと、背中を向けて準備室を出た。


閉まったドアの音が異常なほど大きく聞こえたのは、もうここへ来てはいけないと分かっていたから。