世界を敵にまわしても



「……俺は、心から教師になりたかったわけじゃない」


先生は胸倉を掴んでいたあたしの手を取って、口を割った。


一緒に下ろされたあたしの手は、先生が掴んだまま。


「だから全部自分のせいにして辞めれば、丸く納まるかと思ったんだ」

「辞めなくていいって理事長が言ったのに、それでも辞めるの?」

「……そうだね。これから身の振り方に気を付けても、きっとボロが出ると思ったのも本当だから」

「出たっていいじゃん……っ!」


噂が消えて、また噂が立ってもいい。ダメだけど、先生がボロを出したっていい。


悪く言われるのはあたしだけなんだから、それでいいんじゃないの?


「ダメだよ、美月」


先生はギュッと強くあたしの手を握って、眉を下げながら微笑む。


「理事長はあぁ言ってたけど、何度も噂が立つようじゃ、さすがに俺に嫌気が差すよ。学校のイメージもあるし、噂が学校外にまで出たらマズイでしょ?」

「だったら……だったら、先生もあたしも気を付ければいい話じゃん」


それがいい。

そうするのが1番いい。


学校では話さないようにして、放課後も音楽室に来なければいいんだ。