世界を敵にまわしても



「……噂が立たないよう、努力は出来ないということかね」

「新米の私が生徒に頼られて、嬉しくないと思いますか」


困ったように笑う先生に理事長が溜め息を吐いたことで、あたしは完全に視線を床に落とした。


――もうダメだ。


引き止めたいのに、泣きわめいてでも辞めないでと言いたいのに。先生がそうさせない。


あたし以外の生徒も想う、優しすぎる先生を演じるから。


「……今すぐ辞めるとは言いません。次の講師が見つかるまで、続けさせていただきます」

「……分かった。それを受取ろう」


……止めてよ、理事長。何してるの?


辞めてほしくないんでしょ?先生が必要なんでしょ?


どうして、辞表なんか受け取るの……!


「申し訳ありません、我儘ばかり」


……嫌だ。こんなの嫌。


「気が変わったらすぐに言いなさい。代わりは探しておくが、私は君にやってもらいたいんだ」

「ありがとう御座います。……お気持ちだけ、貰っておきます」


――何も出来ず、先生を引き止めることも出来ないまま。


この後すぐにあたしは先に教室へ戻るように言われ、「失礼しました」と頭を下げて理事長室を出た。


絶望にも似た感情を持ちながら、ただ涙を堪えて。