世界を敵にまわしても



「辞めさせていただきます」



――……は?


「朝霧先生……、辞めなくてもいいと言ってるんだ」

「事実ではないとご理解してくださっただけで十分です。お言葉も有難く頂戴します。けれど、責任を取ることは別です」


……辞める?
何を? 誰が?


「理事長がご理解いただいたように、生徒の間で流れている話は根も葉もない噂です。けれどそういう噂が立ったのは、私の責任ですから」


そう言って白い封筒を差し出した先生に理事長が眉を下げた瞬間、全身が粟立った。


「……辞表……?」


ポロッと零れた言葉に、先生は初めてあたしに視線を移した。


目が合って、驚愕するあたしに何の感情も見せない。


もしかしたら、一瞬だけ悲しそうな目をしたかもしれないけど、それどころじゃなかった。


「……辞めるの……?」


先生の右側に立っていたから気付かなかっただけで、先生はずっと左手に辞表を持っていたんだ。


あたしが呼び出される前に……違う。


本当は先生だけ呼び出されて、噂を否定した後真っ先に辞めると言ったんだ。


それに困った理事長は噂の真意を確実にする為に、あたしも呼んで先生を説得しようと……。


いい、そんなこと、今はどうでもいい。