「余計なお世話です」
「あれ? そうくる?」
会話を続けずに楽譜を鞄の中にしまっていると、多分口癖だろう、「んー」と考えるような声を出す朝霧先生。
「俺はね、高城の素がもっと見たいんだと思う」
鞄を肩に掛けると、ちょうど朝霧先生もあたしに目をやったところだった。
「嘘じゃないよ」
端正な顔全体に静かな微笑みが拡がって、まるで保護者がその子供を見るような眼つきで言う。
母親の慈悲深い眼なんて長いこと見てないけど、確かに綺麗な二重をしていると今更気付いた。
……女子が騒ぐ理由、何となく分かった気がする。
「先生」
「何でしょう」
朝霧先生の伏目は濃い睫毛のせいか、いやに艶めかしい。
「前髪切ったほうがいいと思います」
今度はあたしが意地悪い笑みを向ける番だった。
目を見開く朝霧先生を尻目遣いに見て、あたしは音楽室を後にする。
カキーンという野球部らしい爽快な音が校舎まで届いて、なぜかあたしがホームランを打った気分。
自分が鼻歌を歌っていたことに気付いたのは、その直ぐ後だった。



