世界を敵にまわしても



どれくらい、そうしてただろう。


何を話すわけでもなく、狭い車の中で、あたしと先生はただ抱き締めあった。


寂しさを埋めるように、また明日から頑張れるように。


蝶が華に蜜を求めるように。


そうまるで、蜜がなければ死んでしまうくらいに。


あたしは蝶で華で、先生も華であり蝶だった。



「……美月」


微かに動いた先生にあたしが少し体を離すと、先生が首に回していた腕を解いた。


ほんの10センチ程度離れたところで、先生があたしを見つめる。


「何……?」

「うん……やっぱ、いいや」


乱れていたのか、先生はウィッグの前髪に触れて微笑む。


「今日は、幸せな気持ちで帰りたいから」

「……」

「また今度でいい?」


先生はあたしに話があるんだということくらい、分かった。


きっと、ずっと求めていた答え。


ピアニストに戻りたいのか、教師を続けてあたしを逃げ場所にするつもりなのか。


早く知りたい。だけど、先生が話そうとしてくれた。自分で考えて、答えを出したんだ。


それがあたしにとっていい答えか、悪い答えか分からないけど。


近いうちにもう一度向き合うということでしょう?