世界を敵にまわしても



「決めた! これから勉強する時は、ここに来ればいい」

「………は?」

「ん? だから、高城はこれから音楽室で勉強すればいいよ。放課後に。決まりね」

「……いやいや……」


まず決めたって何?


貴方がどんな権限を持ってどんな理由であたしの放課後を勝手に決めたの?


「嫌です」

「俺、勉強の邪魔しないよ?」

そういう事じゃないんですけど?


あたしが我儘だと言うなら、朝霧先生は勝手気ままだと思う。


「ん?」


何を企んでるんだろうと疑うように見上げると、何の曇りもない瞳を向けられる。


あたしは視線をそらして、帰る為に立ち上がった。


「……先生と話してると、気が抜けます」

「はは! いいことじゃん」


朝霧先生はまた椅子に腰掛け、鍵盤と向き合う。


長い指がポーンと高く長い音を出して、あたしは朝霧先生の伏せた目を見つめていた。



「またおいで」


消えた音の代わりに聴こえた朝霧先生の声は、やっぱり驚くほど耳の奥まで響く。



……あぁ。

あたしは、自分を曝け出せる場所を与えられたのか。