『ちょっと黒沢に変わってくれる?』
涙が邪魔をして返事ができないあたしは、言われてすぐ椿に携帯を突き出した。
何も言わずに受け取ってくれた椿は反対の手であたしの後頭部へ手を回すと、そのまま抱き寄せてくる。
それが余計に涙を溢れさせたから、嗚咽だけはどうにか堪えた。
「もしもし? ――……言われなくたって分かってっから」
前に噂が立った時、先生は晴へ頼んだように、今度は椿にあたしを守るように頼んでるんだ。
「ウチがいるから、美月は大丈夫だよ」
……そう、あたしは大丈夫。椿がいるから。
だけど、先生は?
――『俺は男だし、大人だからいいけど。美月には相談相手くらいいた方がいいと思うよ?』
ねぇ、先生は?
椿があたしを支えるように、誰かが先生も支えてあげなきゃいけないのに。
それをあたしが出来ればいいのに、出来ない。
先生には誰もいないのに。
寂しがりで弱虫なくせに。
先生はいつも、いつもいつも、あたしのことばかり気に掛ける。
その優しさが好きなのに、今はツラいものでしかない。



