世界を敵にまわしても



少し不安に思っていたけれど、音楽室の鍵は当たり前のように開いていた。


ドアを開けて中に入ると少しムッとした空気が肌をくすぐる。


特別何も変わってないなんて当たり前なのに。少し乱れて並ぶ机と椅子、黒板に書かれた五譜線とグランドピアノにホッとした。


数ヵ月前までは家にも教室にも本当の居場所は無かったくせに、音楽室という居場所が増えてるなんて変な話だ。


……違うか。音楽室だとか放課後だとか関係なく、あたしの新しい居場所は先生の隣。


誰よりも愛しい、温もりの隣。



ベランダに出ると、熱くも冷たくもない風が半袖のワイシャツを揺らす。


そう言えば朝のニュースでそろそろ梅雨明けだと言っていた。今年の夏は例年と変わらないらしい。


暑いのは苦手だから、猛暑でなければ何でもいいけど。


ぼんやりと手すりに肘をついてチラホラと帰っていく生徒を眺めていると、音楽室のドアが開く音がした。


「……」


少し間を置いてドアの閉まる音がしたから、きっと先生だ。あたしの後ろ姿が目に入って、手が止まったんだと思う。


こちらに向かってくる足音は、耳を澄まさなければ聞こえないくらい。


でも確実に背後で止まった足音に、あたしは振り返った。