……慰めてあげられたら良かった。
そうなんだ、辛かったんだねって、抱き締めてあげられたら良かった。
大丈夫だよって、傍に居るよって、言ってあげられたら良かった。
きっと先生があたしに望んでいたのは、そういうことでしょう?
でも……やっぱり出来ないんだよ。
それが優しさではなく、甘やかしてるだけだと思うから。
冷たいと思うよね。優しくないって思うよね。
あたしのことなんて嫌いだと、思ったかな。
「……気付いてよ」
手を差し伸べることは簡単だけど。好きだから、そうしないんだってこと。
あたしは零さんと違うんだから。自分から離れていくなんて、そんなことしないから。
――だから、追い掛けてきてよ。
あたしは音楽室を出て廊下を少し歩くと、階段を下りず壁に背を預けていた。
待っても待っても聞こえはしないドアの開く音に、ダランと頭を下げる。
「……弱虫」
逃げないでほしいだけなの。
夢も、あたしのことも諦めないで、追い掛けてほしいだけ。
……我儘だなって思う?でも仕方ないよ。それがあたしの本音だから。
だから、先生の本音も聞かせてほしい。作りものの笑顔じゃなくて、真剣な表情を見せてほしい。
ねぇ……先生。
夜は暗いけど、色んな輪郭を隠すけど、月明りがあるよ。
あたしが、いる。
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