「あたしは先生の逃げ場所になんかならない」
ハッキリと告げながら、あたしの両眼は涙をたたえていた。
いつ頬を伝ってもおかしくないほど堆く盛り上がって、それでもあたしは先生から目を離さない。
「逃げ場所になんか、なってあげない」
真っ直ぐ落ちた涙がぼやけていた輪郭を明瞭にさせると、大きく開かれた眼があたしを見ていた。
眼鏡の奥で悲しげな瞳は暗くなり、床に視線を落としていく。
「……」
夜が好きだと言った先生の言葉の意味が、今なら分かる気がする。
太陽が沈んだあとの暗闇が、自分を隠してくれるから。
脆弱な自分を、虚栄を張る自分を、少しでも隠してほしいんでしょう?
『このまま2人で、夜になりたい』
色んなものから逃げて、自分の気持ちを見て見ぬフリして。もう傷付かないように、もう何も失わないように。
2人で暗闇に融ける事が出来たら、先生は幸せだったの?
手袋も眼鏡も髪も。まるで過去の自分を黒く塗り潰してるみたいに。
傷も隠して素顔も隠して、あたしだけ何も知らないままで、先生は息を潜めるように生きて。
それが、先生にとって1番の幸せだっていうの?
嘘だよ。
そんなのは、幸せじゃない。
そう教えてくれたのは先生、貴方だよ。



