世界を敵にまわしても



グッと拳を握って、浮かんだ涙を我慢する。


「臨時教師をしてるのは何で?」


高校の音楽教師の枠が物凄く少ないって言ってたけど、それが本当だとしても変だ。


いくら左手を怪我してピアノが上手く弾けなくなったからって、ここに居るのはおかしくない?


大学で働くとか出来たんじゃないの?


他にもっと、ピアノに触れられる場所があったんじゃないの?


まるであたしの疑問が聞こえてるかのように、先生は少し黙ってから先程と同じ事を言う。


「師事してた先生に勧められたからだよ」

「本当はピアニストに戻りたいんじゃないの?」


ねぇ、そうでしょう?


あたしと似てると思った理由に、「こんな場所にいるはずじゃなかった」って、入ってるんじゃないの?


夢を、あきらめ切れてないんでしょう?


「夢を見つけたら諦めちゃダメだって、先生言ったよね。叶いそうにないって思わないで、出来るって信じて、叶えてって」


何でそんな事を言うんだろうと思った。


先生が、ピアノ下手でも頑張って教師になったからだと思った。


……先生がそうだったなら、ものすごく頑張ったなら、あたしも夢を見つけたらそう在りたいと思ったのに。


「ねぇ……何で、何もしないで諦めたままなの?」


先生は、それでいいの?