世界を敵にまわしても



「……違うでしょ」


先生が昔の話をし始めてから、あたしは初めて口を開いた。このまま先生だけに話させていたら、延々と続きそうだと思ったから。


濁して、濁して、逃げようとする先生の口ぶりが。


「……なくしたと思ってた楽譜を美月が持ってて、驚いたのもあるよ」


やっぱり。あの楽譜は、先生が書いたものだったんだ。


『わざわざ取りに来るなんて、コレ、高城のもの?』


そう言って楽譜を掲げて笑ってたくせに、嘘をついて一体何がしたかったんだろう。


――先生は本当に、最初から嘘ばかりだったんだね。


嫌な空気が音楽室に充満する。


不穏で、不安定で、何かが壊れそうな感じだ。もっともそれを感じ取ってるのは、あたしだけじゃないけれど。


「……美月と話す前から惹かれてたのは事実だけど、どこかで零を重ねたのも本当で……でも、俺は今、美月が好きだよ」


……だったら、目を見て言ってほしかった。


あたしの目を見て、いつものように。

微笑んで、あたしの反応を楽しむように。

嬉しそうに、からかうように、幸せそうに。


いつかのように、全身で好きと伝えてよ。



口に出さなくても伝わるくらい、それでも口にして、あたしを好きだと言ってよ。