世界を敵にまわしても



零さんは別れたくなかったんだろうと思う。


だけど、そばにいる分だけ先生を傷付けてしまうから、言わざるを得なかったんだ。


……携帯番号、変わってないって言ってたもん。


「……バカみたいだろ。自分で怪我したくせに、本当は一緒に喜んでやらなきゃいけないのに、俺は祝いの言葉すら掛けなかったんだから」


先生は眉間に深くシワを寄せて、傷を戒めるように左手を右手で握り締めていた。


後悔してるの?


そう聞きたいけれど、あたしのちっぽけなプライドが言葉を喉奥で消し去る。


「……零と別れてからも、相当周りに気遣われたよ。友達にも、先生にも、家族にも。……教師になったのは、教授の勧めで。俺が小さい頃から師事してた人が音大の教授だったからね」


それで教員免許を取ったのか。


先生の口から聞く過去はいい気分にはならなかったけど、話してくれること自体には感謝してる。


でも……。


「ピアノは弾けなくても、知識だけはあるから。ただ、高校の音楽教師の枠って物凄く少なくて、臨時だけどね」

「……」


違和感……というより、何だろうこのモヤモヤは。


目の前に居る先生に同情しないと言ったら嘘になるけれど。


でも、そこまで可哀相に思えないのは、何でなんだろう。


そう頭で考えていると、ふいに先生が顔を上げてゆっくりとあたしに視線を移した。