世界を敵にまわしても



「……美月、ちょっと待って、止まって」

「……」

「どこ行く気っ」


あたしが引っ張っていた手は逆に引かれて、必然的に足も動きを止める。


「駐車場、あっちだから……もう遅いし、近くまで送る」


……違う。零さんと話してた時の声色の方が、全然低かった。


知らない。ソウなんてあだ名は。


そんな風に呼ばれていた頃の先生なんて、あたしはほとんど知らない。


「……とりあえず車まで行こう?」


今度は先生が、俯いて黙るあたしの手を引いて歩き出す。


……先生は知らないフリをするけど、嘘が上手だとは思わない。


だって、家族と友達のことで悩んでたあたしを、あからさまに助けたじゃない。


でも、椿に関わって菊池さん達に嫌がらせされてた時、裏で晴に頼んでいたことは知らなかった。


あぁでも、あの楽譜を使ってあたしを呼び出した理由に、好意が交じってたのは聞くまで気付かなかった。


……それは、本当?嘘じゃないよね?後付けなんかじゃないでしょ?


あたしが好きだって言っちゃったから、適当な理由つけて言い包めたんじゃないでしょ?


……嫌だ。先生なら何でも出来そうだと思ってる自分が、そんな事も出来るんじゃないかって疑ってしまう。



ねぇ、先生。



あたしは、零さんの身代わりなんかじゃないよね?