世界を敵にまわしても



「……零さんって、元カノ?」

「ヤダ、何も知らないの?」


あたしが質問した相手は先生なのに。


零さんが答えた事でもう、分かってしまった。


何でプログラムで名前を見た時に気付かなかったんだろう。


先生と初めてデートした時に昼ご飯を食べた場所。あそこで店主さんが言った言葉。


『先日、氷堂さまもいらっしゃいましたよ』


きっと、昔一緒に来てたことがあるんだろう。


零さんは、先生と3年間付き合った人だ。

たった2年前、別れた人。先生を、フッた人。


「そんなに睨まないでよ。今付き合ってるのは、美月ちゃんなんだから」


そうだよ。そうだけど。


「まぁ、顔はちょっと似てるかな? あたしと」


カッと顔を熱くしたあたしに、零さんは妖艶な微笑みを浮かべる。


澄んだ瞳の底から浮かび始めた残虐な微笑は、静かにあたしの胸の奥へ毒を流した。


「知ってると思うけど、ソウって嘘吐くのが得意よね?」

「……零」

「何よ、ホントの事じゃない。あと後付けするのも、言い包めるのも得意よね?」


毒が、回る。


抉るような痛みが胸に走って、あたしは先生の腕を掴んで強引に歩き出した。


「ソウ! 番号、昔と変わってないから!」


――嫌。


――嫌だ、こんなのは。