世界を敵にまわしても



「……連れってあの子?」


視線が絡まって、背筋がゾクリとする。


遠目だったのに、ドレスを着ていないのに、分かった。


氷堂 零……。


ほんの小一時間前までステージで演奏していた彼女が、何でここにいるの……?


「ヤダ、固まってるわよ? あの子」


意味が分からず先生を見ると、先生もあたしを見ていた。


けれどその表情は、あたしが飲み物を買いに行く前とは全然違う。何て言えばいいのか分からない。


だって、見たことのない表情だったから。


「こっちおいでよ。……名前分かんないや、何て言うの?」


止まっていた足を恐る恐る前に進めると、座っていた先生が腰を上げた。


「美月だよ」

「ミツキ……美しい月?」


氷堂さんは先生からあたしに視線を移して、名前の漢字を問い掛けて来る。


「そうです……」


「へぇ」と言いながらジッと見てくる氷堂さんを、あたしも見返した。と言うより、目を奪われたと言った方が正しい。


演奏前に感じた通り、凄く綺麗な人だと思った。だけど、それだけじゃない。