世界を敵にまわしても



「の、飲み物買ってくる!」

「え? 俺も行こうかって、ちょ、みつ……」


先生の言葉も待たず、あたしは逃げるように文化センターへ戻った。


やっぱりコンサートは終わったらしく、待合ホールは来た時のように人で溢れている。


「……はぁっ……」


無駄に走ったあたしは息を整えて、入口付近にある自販機の前に立った。


……ほんと、バカ。


先生にはちょっと厳しくしないとって思ってたのに、先生の前にあたしがダメすぎる。


何普通に膝の上とか座ってるんだ!しかも先生に寄り掛かって!


思い出す分だけ恥ずかしくもなるけど、もうちょっと危機感を持たなきゃとも思う。


いくらこの場所が学校と反対方向でも、ウチの学校の生徒が居ないとは言い切れないんだから……。


……でも、いいな。


入り口付近や待合ホールにいる人たちの笑顔を見ながら、そう思う。

きっと今日の演奏について、楽しく話し込んでるんだ。あたしは詳しくないから、クラシック好きな先生と同じような感想は抱けない気がして。それを、先生は退屈に思わないかな。


「……」


あたしはダテ眼鏡を押し上げてからカフェオレを2 本買って、自販機の前を後にした。



待合ホールとは違って、先ほどまで先生といた場所には、人がまったくいなかった。


だから建物の角を曲がった瞬間、目に入った女の人に足を止めてしまう。


あたしに気付いたその女の人は、微笑みながら唇を動かした。