世界を敵にまわしても



彼女が舞台袖に歩き出すと、あたしは隣に感じない存在にハッとした。


すべての観客が立って拍手を送る中で、先生だけが座ったままだということに、今さら気付く。


いまだ鳴りやまない拍手の最中にあたしは座って、恐るおそる先生の腕にソッと触れる。


先生は肘掛けに肘をついて、その手で顔をおおっていたから。


「先生……?」


つぶやくように呼び掛けると、この拍手の中で耳に届いたのか、先生は顔を見せてくれた。その顔色にあたしは目を見開く。


「どうしたの……!?」


真っ青だった。


明らかに具合が悪そうな先生に、あたしはあわてて辺りを見渡す。ポツポツと拍手がやんでいき、席に座る観客もいれば、そのままドアへ向かう人の姿も見えた。


……そっか、休憩が挟まれるんだ。


「歩ける? 外に出よう。真っ青だよ……」


返答を待たずに席を立って先生の手を取ると、先生は何の抵抗もなくゆっくりと立ち上がった。


近くにいた観客が「具合悪いの?」とか「大丈夫?」と小声で話し掛けてくる。


あたしは「スミマセン」と謝るだけにして、先生の背中に手を添え、会場を出た。