世界を敵にまわしても



何だろう。凄く感傷的なのに、爽やかで、甘美な魅力がある。


ためらいがちになったり伸びやかになったり、何だかとても、詩情に溢れてる気がした。


……恋の曲かな? 表情とか気持ちのうつろいを、ひしひしと感じる。


彼女は鍵盤にグッと近付いたり遠ざかったり。指で、手で、腕で。きっと表情にも想いを乗せながら。体全体で、旋律の強弱を表現していたから。


それにしてもピアノが速く聞こえる。何分音符なんだろう。


言われてもわからないけど、見てるだけで指がつりそう。


だけど、目がそらせない。惹き付けられる。


涙出そう……。


物凄い早さで鍵盤に食いつくようにピアノを弾いていた彼女は、やりきったようにフッと鍵盤から手を放し、膝に手を置く。


曲の締めを任されたオーケストラは、壮大から優雅な音に変わり、全奏者の合奏で華々しく幕を閉じた。


その瞬間、ワッ!と会場がわき立つ。


スタンディング・オベーションだ。素晴らしい演奏をした彼女たちに、観客が総立ちで拍手喝采する。


それはもちろん、例外なくあたしも同じだった。


割れんばかりの拍手に彼女はスッと腰を上げて、観客に向かって一礼する。


……きっと、すごいピアニストなんだろうな。