世界を敵にまわしても



……もうちょっと、可愛い態度取れたらなぁ。


そんな風に思いながら耳に届いた音にステージへ視線を移すと、調律師だろうか、運ばれたピアノの音を一通りチェックしているようだった。


その後も、オーケストラが簡単なチューニングをしたりする。


……始まるのかな。


再び静かになってきたホールは、お客さんがみんなステージを見ているからだった。


あたしはステージでもオーケストラでもなく、ピアノを見ていたけれど。


艶のある黒を見ると、なぜか胸が締め付けられる。


同時に切なくなるのは、先生がピアノを弾く姿を思い出すから。


「……」


一心にピアノを見つめていると、袖から出てきた紅に息を呑んだ。


真っ赤なロングドレスを身にまとって、うねりひとつない、腰まである黒髪を揺らして。


釈然たる態度でステージの中央に立ち、流れるようなお辞儀をした彼女を大きな拍手が迎える。


遠目で顔がよく見えなくても、率直に綺麗だと思った。


姿勢も、歩き方も、お辞儀も、自信に溢れてるような。

大勢の観客を前にして、堂々とする姿が印象的だった。


……椿みたい。