「しゃーないねー。また明日にしよ」

「もーっ。せっかく来たのにさー」

「そういや2年の担任代理してるとかって」


パタン……とドアが閉まって、2人の女子生徒の声が遠ざかっていく。


完全に声が聞こえなくなると先生はあたしの口から手を離して、あたしは先生に背を預けた。ドッと疲れが押し寄せたから。


「はー……驚いた」

「……」

「ね?」


……信っじられない!


「ね? じゃないんですけど!!」


振り向いて、あたしは思い切り先生のネクタイを上に引っ張る。


「アホなの? バカなの?」

「ちょ、ゴメン苦しい……ははっ! ほんと咄嗟に隠れちゃって」

「シーッ!とか言ってたじゃんか!」


どの辺が咄嗟だ!そして笑うな!


「まぁ、見つかんなかったんだし。ドキドキしたね」

「……先生ってまさか天然じゃないよね」

「え? 俺のどのあたりが?」


不安だ。大丈夫だろうかこの人……。


あたしは盛大な溜め息を吐いて、先生のネクタイから手を離す。


「あ、ほら。さすがにマグカップは無理だったけど、美月の鞄も持ってきたよ」


……忘れてた。そこまで気が回るのに、何でわざわざ先生も隠れたかな。


ていうか最初から2人隠れる必要もなかったよね。