「先生……ここに布巾ってないでしょ?」
振り向いて問うと、先生は笑い疲れたのか小さく溜め息を吐く。
「はぁ……笑った」
「あたしどっかから持ってくるから」
「まさかマグカップに邪魔されるとは思わなかった」
話を聞け! そういう事をサラッと言うな!
「先生っ」
「え? あぁ、布巾?」
「持ってくるからっ」
強制的に会話を終わらせて割れたマグカップの方へ体を向けると、踏み出した足がズルッと滑る。
「……っ!」
咄嗟に机に手を置いたけど、後ろに倒れた体は支えられなくて。先生の腕に抱きとめられたのは、分かった。
ゴツッと痛そうな音が聞こえたけど、あたしはどこも痛くない。
あちこちに視線を移して、見えたものは割れたカップに零れた珈琲。
左右に膝が立てられた先生の脚と、腹部に回された先生の腕だけ。
それから背中に感じる先生の気配。
尻もちをついた状態のあたしと先生は、まるでコアラの親子状態。いや、普通は親の背中に子供がおんぶされるのか。あたしのほうが小さいから、逆バージョンだ。
「イッテ……」
変なこと考えてる場合じゃなかった。



