世界を敵にまわしても



「浮かれてたからね、街中で堂々とし過ぎたなって思ってたんだ」

「……気を付けてよ」

「あれ? 俺だけ?」

「あたしも気を付けるけど!」


ククッと喉仏を上下させる先生は、ちゃんと分かってたらしい。


2人の関係が、公になってはいけないってことを。


ホッとしたけど、1人アタフタしてたあたしがバカみたいだ。


机に寄り掛かりながら腕を組んでムスッとしていると、「あぁ、でも」という先生の声に顔を上げた。


「!」

「俺、我慢強くないんだよね」


いつの間に目の前まで来たのか。先生は机に両手を付けて、あたしと同じ目線に居た。


仰け反りたくても後ろは机で、左右は先生の腕で固められていて、逃げる事ことすら出来ない。


「……っ」


特にセットしていない黒髪に、黒縁眼鏡。


パッと見は真面目な風貌のくせに、どこからそんな意地悪い笑みが浮かぶんだ。


……近い! 顔が近い!


「真っ赤」

「~うるさいっ!」


出来るだけ後ろに身を引いても、大した距離は出来ない。


そらされない真っ直ぐな視線が、羞恥心を煽る。


だいたい、我慢強くないって何! しようよ我慢!


パニックを起こしそうになってる内にグッと先生の顔が近付いてきて、あたしは心の中で悲鳴を上げた。