「俺は男だし、大人だからいいけど。美月には相談相手くらい居た方がいいと思うよ?」
「……」
「絶対、何かの時にしんどくなると思うから。まぁ、そうならないように気を付けるけど。黒沢に知られた分には、困らないでしょ?」
何だソレ。
左手でこめかみを押さえると、相当悩ましげな顔をしていたのか、先生の笑い声が耳に届いた。
「くくっ……もしかしなくても心配してた? 俺が何も考えてないんじゃないかって」
「してたよ……」
脱力する。
怒る気にもなれない。
「そうか、俺は美月の中でボケッとして何も考えてない、緊張感のないアホなんだね」
「そこまで思ってないけどっ!」
「持ってるよ」
人懐こそうに眼もとを細くして微笑む先生を前にすると、言葉が行き場を失う。
持ってるって、何を……。
「秘密にしなきゃいけないって気持ちも、美月を守らなくちゃいけないって気持ちも」
「……」
「誰かにバレてこの恋が終わるなんて、嫌だからね」
――霧が、晴れたような気分だった。
先生の顔を見て、先生の言葉を聞いただけで、モヤモヤしていた胸の奥がスッキリしていく。
代わりにゆっくり、でも確実に心拍数が上がっていったけど、それは気にしない事にした。



