世界を敵にまわしても



「ははっ! めずらしいね。淹れられるの?」

「バカにしないでくれる」


インスタント珈琲くらい、淹れられるでしょ普通!


「じゃあ、俺も同じのでお願い」

「先生って割と甘党だよね」

「んー。そうかも」


言いながら、先生は多分お菓子を探している。その音と、あたしが珈琲を淹れる音だけが準備室に響く。


マグカップの中にミルクを垂らすと、煙が底のほうから立ち上るようにミルクが混じって、褐色の珈琲は柔らかい色に変わっていった。


「先生」

「何でしょう」

「椿にバレてた」


マドラー代わりのスプーンで軽く混ぜてから、2つのマグカップを持って振り向く。


わずかな差で先生も振り向いて、でも口元を菓子箱で隠していた。


「黒沢に?」

「……うん。見てれば分かるって言われて、ごまかせなかった」


平然と言いながら先生のマグカップを机に置いたけど、内心ドキドキだった。


先生は菓子箱で口元を隠したまま、考えるように宙へ視線を向けている。


「そっか、黒沢って鋭いね」

それだけ!?


「鋭いねって……他に何かないの?」

「え? でも黒沢でしょ? 気付きそうだなとは思ってたから……何か心配?」


――心配だ。


気付きそうと思ってた、先生が。