世界を敵にまわしても



窓際の1番前の席に腰掛けて、机に突っ伏す。


そういえば今日は、校庭で活動する生徒の声があまり聞こえない。


音楽室のドアに向けていた顔を窓へ向けると、曇り空が広がっていた。


いかにも雨をたくさん含んでそうな雲が、寸分の隙間も無く空を灰色に染め上げる。


今日、空なんて見なかったから気付かなかった。今にも雨が降りそう。


のろりと上半身を上げて、ぼんやりと空を見上げながら何分経っただろう。


静寂な空気を、ガラッとドアの開く音が引き裂く。


頬杖をついていた右手を外して振り向くと、先生が唇を閉じたまま静かに笑っていた。


「……先生」

「久しぶり。って言うのも変かな」


先生はドアを閉めると、ファイルや教材を腕に抱えながら歩み寄ってくる。


あたしは席に座ったまま、目の前まで来た先生を黙って見上げた。なぜか、上手く言葉が出なかったから。


「……うん、やっぱり。久しぶり、美月」


あたしを見下ろす2つの瞳がやんわりと細められて、胸の奥がキュッと音を立てたような気がした。


「2週間ぶりくらい」

「だね。毎朝教室で顔は合わせてるのに、変だな」


うん、でも。


やっぱり朝よりも授業中よりも、放課後の先生の方が近くに感じる。